蔵のある風景・・・つばさにのって ⑥

s_8.jpg 私の住んでいる近辺は卸業を営んでいる店が集まっていたので、倉庫としての蔵を持ち、店、住まいは普通の建物だった。隣の町は小売業が多く、蔵は店舗になっていた。ここが現在観光のメインになっている。

 蔵は大事な商売の品物を監理している所なので、子どもの出入りはどこの家でも禁止であり、鍵がかけてあったりしていた。蔵の中は厚い土塀に遮断された別世界である。子ども達の想像力を刺激し、誘惑をする。大人の目をぬすんで忍び込む秘密の遊び場所だった。

 私の家の蔵の一階は商売用に使い、狭い急な梯子のような階段を上った二階には、祖母の持ってきた雛人形や父の端午の節句の一式や長火鉢など、様々な小道具が蔵の闇の中でひっそりを眠っていた。

 ひとかかえもあるような太い梁には、長い年月蔵を支えてきた雄雄しさも少しづつ衰えてきた悲しさが漂っていた。外からもうちからも少しずつ崩れてきたが、蔵の中は変わることなく、夏は涼しく、冬は暖かく、無言の闇が私の心身を包み込んでくれた。

 母と喧嘩したとき、学校でいやなことがあったとき、一人になりたいとき、小学生の私は、禁断の蔵のなかにひっそりと身を置いた。包み込んでくるような闇は母の胎内にも似て、時を遡り、命の種になってゆくようだった。       おわり